アルタカペッラの会
2025年7月6日。東京にて。古楽器演奏家、製作家、バグパイプ奏者の近藤治夫さんとの共同企画で「アルタカペッラの会」を開催しました。アルタカペッラとは中世からバロックの広い時代にわたり、ヨーロッパで演奏されてきた大音量のバンド形態を指したものです。
当日の内容は、
・お互いに持ち寄ったドゥルツィアン、バグパイプ等のアルタカペッラの楽器や、ラケット、クルムホルン等のルネサンス・ダブルリード古楽器の試奏
・長谷川によるリードメイキングのデモンストレーション
・バグパイプとドゥルツィアンによるスザートやプレトリウスの曲の合奏
・近藤さんによるバグパイプのバッグ(袋)のシーズニング・ワークショップ
4時間があっという間に終わる充実したものでした。
「アルタカペッラ」について近藤さんの言葉をそのままお借りすると、
“13〜18世紀を中心にヨーロッパで演奏されてきた大音量の木管・金管楽器によるアンサンブルのことで、使われた楽器は、ショーム、ドゥルツィアン(カータル)、スライドトランペット、ツィンク、サックバットなどで、バグパイプやパイプ&テイバーも入ることがありました。町の行事などの時に野外で演奏され、イギリスでは「ウェイツ」、ドイツでは「シュタットプファイファー」、イタリアでは「ピッファーリ」と呼ばれ、日本語では「都市楽師」という呼称が使われることがあります。”
というものです。
個人的には、現代のクラシックの大ホールで燕尾服を着て拍手をもらう感じの音楽ではない、というのが重要なポイントかと思っています。
フランス留学時代に“Doulce Mémoire”というグループによる衝撃的な演奏に感動したこともあり、私は日本でアルタカペッラがやりたいやりたいと叫んできました。古楽器アンサンブル“さかなにしたろうかな”の野外コンサートは、まさにこのアルタカペッラの演奏形態でおこなっています。昨年はスペインのモレッリャでおこなわれた中世音楽の音楽祭でアルタカペッラクラスに参加しました。
私はこの種類の音楽の魅力というのは「聴いて楽しい、観て楽しい、やって楽しい」ものだと思っています。もちろんクラシック音楽や古楽を専門的に演奏している身として、アカデミズムを追求した美しさ、知的好奇心を高める芸術の素晴らしさを世に広めていく責任はあると思ってます。しかし、それが障壁となって魅力的な音楽に参加できない人がいるとしたらもったいない。このような音楽こそ現代においても多くの人に素直に楽しんでほしいと思います。
といってもこの楽しく魅力的な音楽を実現させるにはそれなりの人員や楽器、知識が必要です。また認知度の低い音楽というのはすぐにお金になるものではなく、事業として成立しないのでプロフェッショナルも少ないのです。いまの日本で仲間内でやりたい、やろうといってすぐに実現できるものではありません。
そこでこれを実現させるために必要と考えているのが、熱心な愛好家と専門家が協力をすることです。最近読んだアンナー・ビルスマのエッセイに「オランダ古楽の特徴として、アマチュア音楽家が積極的に取り組んできたことも指摘できる。アマチュアが、そのような古い音楽を楽しみの一環として家庭で頻繁に演奏し、それがオランダにおける古楽復興の下地として潜在的に育っていった」と書いてありました。
やりたいけどまだ形にならないことを実現するには、なによりも今の時点で同じような心を持つ人が垣根なく集まって、時間をかけて少しずつ種を蒔いていくしかありません。
私はこのような催し(この会に限らず)に、プロアマ問わず楽しんで参加する人が増えて、古楽の世界がさらに盛り上がりや広がりをみせて、逆に日本から世界に発信していけるような未来を夢見ています。
先ほどの本でビルスマが続けて言っていることが印象的です。「我々(ビルスマ、ブリュッヘン、レオンハルト)が専門家として古楽で食べていけるようになるまで長い時間がかかった。コンサートホールの企画担当者は誰も興味を持ってくれなかった。ブリュッヘンの音楽は子どもたちには大人気で毎回超満員だったんだ。いずれにせよオランダで古楽が盛んになったのは雰囲気がリラックスしていたからだ。そうした雰囲気だと“実験”や“挑戦”がしやすい。」
まだ規模は小さいですが、黎明期の古楽の風景を想起(想像)させられるような、ロマンのある会でした。私たちの会は誰でも参加できます。みなさんも次回は是非いっしょに「聴いて、観て、やって」音楽を楽しみましょう。
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