スペインの教会ファゴット(Bajón)について
いつの間にかブログは気が向いたときに書くものになりました。
前々回から前回、気が向くまで2か月半かかりました。
それに対して前回のブログから今回は2週間で気が向きました。思い立ったが吉日。書くのは今なのです!
今回書くことは僕が体験したことではなく、聞いたり・読んだり(主に二次資料、三次資料ですorz)したものです。
この文章の目的はドゥルツィアンについての情報を日本語で得るのが難しい人に基本情報を知ってもらうことです。なので、二次資料を自分なりに解釈して日本語にするだけでも価値はあるかと思いました。
また、このブログは僕の知ったことのメモ的要素もあるので、僕が新しいことを知っていく場合に情報を更新していく場合があります、どうかご理解のほどを、
18世紀スペインで使われていた3ピースドゥルツィアン(Bajón)
ドゥルツィアンと似た名前の「dulcina , dolzaine, dolzaina」といった別の楽器は14世紀頃から資料に存在します。どんな楽器だったかは明確ではありません。
私たちがドゥルツィアンと呼んでいる楽器を指し示す最も古い資料は1550年前後のものと言われています。(イタリアのヴェローナの音楽学校が1546年にdolzanaを買ったという資料があり、これがドゥルツィアンだと考えられています)
今のところの説ではドゥルツィアンの起こりはイタリアで、1600年頃までにはヨーロッパ、ラテンアメリカ(!?)に広がっていったとされています。
さあここからが本題。
スペインに渡ったドゥルツィアン、その中でもバスのドゥルツィアン(普通サイズのドゥルツィアンのこと)はBajón(バホン)と呼ばれ独自の進化を遂げていきます。
スペインでの一番最初のBajón(ドゥルツィアン)は1556年にベルギーから渡ってきたもの。それが数年でマドリッドやグラナダなどの主要な都市の教会に広まっていきました。
1590年からマドリッド大聖堂の王室礼拝堂に楽器工房が設立され、数々のメーカーが王室のために楽器を作りました。Bajónの製作者も設立当時からいて、工房が無くなる1701年まで途切れることはありませんでした。その製作者の中にはバルトロメ・デ・セルマ(僕のブログに度々登場するドゥルツィアンのための曲をたくさん残した作曲家、の父。Bajónの名手)もいました。
写真(Edgar Gutierrez氏のものをお借りしました)コリスタとしての役割を担うドゥルツィアン。
Bajónにはどのような役割が有ったか。以前ブログにも書きましたが、いくつかの声部の楽器と組み合唱を補強する事。ソロ楽器やアンサンブル楽器として器楽曲への参加などがありました。
しかし、(ここ超重要!!)
それ以外にスペインで顕著だった役割として、「コリスタ(Corista)」というものがありました。Coristaというのはイタリア語でチューニングピッチを意味します。Bajónは「Bajón Corista」と呼ばれ、機能のひとつとして、一人でグレゴリオ聖歌において歌手、またはコーラスをサポートし、音量と安定したチューニングの両方を提供していました。時にはオルガンとタッグを組んだり、バス歌手に代わり、ソプラノ・アルト・テナーの合唱に加わることもありました。
いつか自分もやってみたい!!
17世紀初頭の報告書によると。Bajónistaは多才であることが求められていたそうです。なぜなら彼らは、技巧的な曲を演奏するだけでなく、即興的に移調する必要がありました。また少年聖歌隊に指導するという役割もありました。
スペインの音楽学者Pere Rabassaは1724年に「初心者のための音楽ガイド」で
Bajónは聖歌隊に関する楽器。
新しいバスーン(バロックファゴットのこと)はオーケストラの楽器。
と定義しました。
その他の18世紀ヨーロッパ諸国ではドゥルツィアンはバスーンに取って代わられましたが、スペイン・ラテンアメリカでは20世紀初頭まで教会楽器として使われることになります!!(ここ。驚くところです)
スペイン式Bajónの運指表。1800年の資料をJosep Borràs氏が書き直したもの。
また、特別な進化を遂げたスペインのBajón。他のヨーロッパのドゥルツィアンとは違う機構の物が作られました。普通のドゥルツィアンは指穴を全て塞ぐとド(C)の音がなり、基本的に指穴を開けていくごとに「ドレミファソラシド」の音階が鳴るように出来ています。しかし、教会音楽に特化したBajónの中には、他のドゥルツィアンと同じ運指で「レミ♮ファソラシ♮ドレ」という音階が鳴る物が現れます。この音階はドリアン。教会旋法と呼ばれるものです。(ドレミファソラシドの運指が変わっただけ、とも取れますが)
また18世紀には3ピースBajón(一番上の写真)という楽器も現れ、その楽器にも教会旋法の音階は受け継がれました。
18世紀になってもなお生産され続け、スペインにおいて重要な楽器であったBajón。宗教曲以外の音楽でも使われるようになりました。特にヨーロッパの他の国ではハイドンやモーツァルトが活躍している頃、スペインの音楽学校の試験曲として多くのソロ曲がBajónとオルガンのコンビのために書かれました。(ここも驚くところです)
これは20世紀にフランスのパリ音楽院でボザやM.ビッチらがフレンチバソンのために試験曲を書いたのと同じですね。
これらの曲の楽譜はたくさん残っているのにも関わらず、現在でも体系的になっていません。スペイン各地の教会に所蔵されていたり。
それに音源も少ないです。
アンセルム・ヴィオラ・イ・ヴァンテ(1738-98)という作曲家はBajónオブリガードのための協奏曲を作曲しています。Youtubeをアサっていたらモダンファゴットで演奏しているものがありました。これ、ドゥルツィアンでやったらかなり価値ありますよね(キラリ✨
)
スペインのBajónという楽器について。
これは、まだまだ認識を広める価値のあるジャンルだと思います。現代スペインの古楽ファゴット界の重鎮Josep Borràs氏が論文を書いているようですが、いずれ読んでみたいです。スペイン語なのかな、、、
まあ今はGoogle翻訳もありますしね!!(これで良いのだろうか笑)
また情報が増えたら公開していきたいと思います。
さて、次はいつ気が向くかなぁ、、、
Josep Borràs氏とFernand Sánchez氏(どちらもスペインの音楽大学の教授)による18世紀に書かれたBajónのためのソロ曲
教会のパイプオルガンと一緒に。
なんて素敵な雰囲気♪
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