ドゥルツィアンについて③

さて、ここからがファゴット奏者にもあまり知られていない内容。
ソロ楽器としてのドゥルツィアンについてです。

ドゥルツィアンをファゴットの祖先とした場合。現在オーケストラで使用されている管楽器(トランペットのような金管楽器や、クラリネットのような木管楽器)中で、ファゴットは特に長いソロ楽器としての歴史を持っています。
他にドゥルツィアンの活躍していた16〜17世紀にソロ楽器としての地位が有った管楽器に、リコーダーやコルネットなどがありますが、現代のオーケストラでは使われていません。

過去の作曲家はソプラノ〜グレートバスがあるドゥルツィアンの内、バスを担当するドゥルツィアンに目をつけました。
確かにそれらの楽器の中で最も音域が広く、音色も変化に富んでいると思います。

その作曲家と作品には以下が挙げられます。
ーSelma y Salaverde:セルマ・イ・サラベルデ)
4つのfantasiae(僕がホームの動画で演奏している曲です)
Vestiva I colli
Susanna


ーBertoli:ベルトーリ
9つのsonata


ーBöddecker:べデッカー
Sonate sopra la Monica(ファゴット吹きでは知らない人のいない名曲)

等です。
これらの曲にはかなりこの名人芸が求められます。おそらく当時、相当の名手がいたのでしょう。セルマは自身がファゴット奏者であったといいます。
彼の書いた曲の楽譜がこれ。

パッと見ただけで読む気が失せてしまいそうな楽譜ですが、音符が多く、大変そうだということはわかりますね。
(曲名がDulcianの為ではなく、Fagottoの為ということについては別の回で言及します)

ファゴットの為の曲と曲調が違うところは、主に跳躍が少なく、順次進行が多いところでしょうか。それはドゥルツィアンの為にそう書かれていると言うよりかは、その時代の曲の流行りかもしれません。
しかし、ドゥルツィアンを実際に演奏してみるとファゴットより順次進行のパッセージが吹きやすく、この曲を吹くのに適していると気づきます。それは複雑なキー操作を持たないこともあるでしょう。
ドゥルツィアンは吹き込む息の圧力や速度によって、音程が簡単に変わります。(ドの指でもシ♭の音くらいまで出せます)これは操作が難しいという印象を与えますが、息をコントロールしてしまえば簡単な指使いで調号の付いた曲を演奏できるとも言えます。


実は機動性のあるドゥルツィアン。ソロの他にもその力を存分に発揮しました。

リコーダーと低音楽器と通奏低音。二本のヴァイオリンと低音楽器と通奏低音。ヴァイオリンとコルネットと低音楽器と通奏低音、、、、
このような高音楽器と低音ソロ楽器と通奏低音という編成の器楽曲が当時は沢山存在しました。
そして、実はなんと、当時この編成の曲を書いた多くの作曲家が、
低音ソロ楽器にドゥルツィアンを指定したのです!!!!(バスの弦楽器ではなく!!)

それには理由が考えられます。

まず発音の明瞭さ。
ホーム画面に貼ってある僕の演奏動画を見て分かると思いますが、ドゥルツィアンの発音は非常にハッキリとしています。作曲家は響きのある教会で演奏することを想定して、ドゥルツィアンを選んだのではないでしょうか。

ソロ楽器としての能力。
前述した通りドゥルツィアンはソロを演奏するのに十分な機動性、音域、表現力を持っています。同時に演奏しても、ヴァイオリンやリコーダーに引けを取ることはありません。

そして持ち運びの便利さ。
前の回でも書きましたが、当時の演奏家は教会のバルコニーで楽器を突き出して演奏することが多かったようです。(僕もこの一年で何度もやりました)
そこでヴァイオリンやリコーダーは演奏出来ても、バス弦楽器は突き出せない。演奏できても音がこもってしまうのです。
そこで持ち運びや立奏に便利なドゥルツィアンというわけです。

これらはあくまで僕が1年間教会で当時の作曲家の曲をドゥルツィアンで演奏した中での仮説です。

フランスでも日本でも、仲間を集めてこういう曲を沢山演奏したいです♪

上の動画はセルマが書いたCanzonで、ヴァイオリンとドゥルツィアンと通奏低音による演奏です。

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